はじめに

 21世紀の前半を展望した場合、わが国は、国際化、自由化、情報化の荒波を乗り越えなければならない。政治的、経済的な衰退が進行する中で、この荒波を乗り切るのは容易ではないが、それを克服できたとしても、それでわが国の長期的、安定的な発展が期待できるわけではない。少子高齢化社会の到来に必然的に伴う国民負担率の上昇に対応しなければならないからである。国民負担率は、税負担率と社会保障負担率を合算したものであるが、高齢者の増加に伴う年金と医療費の負担の増加だけでなく、少子化による一人あたりの負担額の増加にも対応しなければならないのであるから、第二次世界大戦の終結以来、主権者となったはずの国民が50年以上も採用し続けてきた「おかみ」に「おまかせ」して当面の問題をしのぐという中央集権型の行政に依存する「観客民主主義」では、もはや対応しきれなくなっている。この歴史認識を前提とするならば、主権者である国民が採用すべき今後の方針は、国民主権に基づく自助努力を出発点とするものでなければならない。
 主権者である国民の自助努力を出発点とし、自由競争を是認して、結果の平等よりも機会の平等を鼓吹すると、所得格差が拡大することは容易に予想されるが、その事態に対応するのに最も有効な制度は、住民自治である。つまり、現在のわが国の中央集権体制を支えている中央官僚の指示を待って全国一律に横並び方式によって他律的に対応するのではなく、高福祉高負担か低福祉低負担かを地域住民が実質的に決定できるようにすることである。その決定過程の中で、貧富の差の拡大に対応する方策だけでなく、地域格差の拡大に対する対策も、地域住民の責任において地域ごとに創出するればよいのである。その場合、地域社会の置かれている状況によって創出される方策は異なるから、地域格差が拡大することが予想されるが、その格差は主として社会福祉の給付を求める人口移動によって緩和されることになる。
 以上のような展望の下に、本書では、住民自治の徹底においてリーダーの役割を担うことを期待されている地方議員について、その政治意識を取り上げる。第二次世界大戦後に制定された日本国憲法に基づいて、国会、都道府県議会、区市町村議会の3種の議会が設けられ、議会は三権分立または二権分立の一翼を担っている。本書は、都道府県議会と区市町村議会の議員を対象とし、代議制民主主義において期待されている議員と議会の役割、地方議会の現状、実態調査に基づく地方議員の政治意識、地方議会活性化の課題の4部で構成することとした。
 第1章では、代議制民主主義において地方議会と地方議員に期待されている役割を取り上げ、地方議会の現状と地方議員の政治意識を検討する場合の前提条件を提示する。第2章では、都道府県については『全国都道府県議会議長会調査』、市では『市議会の活動に関する実態調査』、町村では『町村議会実態調査結果の概要』に基づいて、地方議会の実態を検討し、第3章では、2000年12月に実施したアンケート調査から得られた地方議員の政治意識について取り上げる。第4章では、以上の検討の結果をふまえて、地方議会活性化の課題について述べることとする。
 なお、第3章で取り上げたアンケート調査の結果は、北陸大学特別研究助成によって実施したものである。
                              2002.7.10

目 次

はじめに

第1章 代議制民主主義と地方議員の役割

 1 国民主権と代表者の関係
  (1)個人主義の要件
(2)コミュニティの形成
(3)自助努力
(4)ボランティア
(5)直接民主主義
(6)間接民主主義と選挙公約と情報公開
(7)中央と地方
(8)三権分立と二権分立
 2 住民参加と代表者の役割
 3 住民代表と選挙公約
 4 地域社会のあり方と予算・決算
 5 納税者と代表者
 6 議会運営
(1)議会活動日数と報酬
(2)全員協議会と情報公開
(3)議長と副議長の在職年数
(4)傍聴者
(5)議員定数

第2章 地方議会の現状

 1 議員定数と削減数
 2 議長の任期
 3 議会活動
 (1)町村
 (2)市
 (3)都道府県 
 4 地方議員の立法能力
 (1)町村
 (2)市
 (3)都道府県 
 5 議会費と議員報酬
 (1)町村
 (2)市
 (3)都道府県 
 6 議会の情報公開
 (1)町村
 (2)市
 (3)都道府県 
 7 全員協議会と委員会協議会
 (1)町村
 (2)市
 (3)都道府県 
 8 傍聴者
 9 調査と研修
 10 所属党派と女性議員

第3章 地方政治の実態

 1 情報公開
 (1)情報公開の必要性
 (2)情報公開の制定状況
 (3)住民の情報公開の利用状況
 (4)政務調査費
 (5)情報公開による住民に追及
 (6)全員協議会
 (7)委員会協議会
 2 選挙公約
 (1)選挙公報の発行
 (2)選挙公約の公表
 (3)選挙公約と議員活動
 3 選挙公約と予算・決算
 (1)選挙公約と予算・決算の結合
 (2)選挙公約と議会発言
 (3)予算原案の修正
 (4)決算審査と市民オンブズマン
 4 地方分権と財源委譲
 (1)地方債の事前協議と予算審議
 (2)行政サービス値費用負担の連動
 (3)事務事業と財源委譲
 5 地方交付税と地方公共団体の自立
 (1)行政水準の維持
 (2)交付税の評価
 (3)地方公共団体の自立と地方交付税
 (4)過疎地域と地方交付税
 (5)地方交付税の段階的縮小
 6 国庫支出金
 (1)国庫支出金の継続
 (2)超過負担の解消
 (3)国庫支出金の一般財源化
 7 住民投票
 (1)住民投票の必要性
 (2)地方自治法の改正
 (3)住民投票の対象事業
 8 議会と首長
 (1)議員の与党化状況
 (2)与党議員の要望
 (3)与党化の理由
 9 広域行政
 (1)広域行政の賛否
 (2)広域行政の適合事業
 10 議会の夜間開催
 (1)夜間開催の賛否
 (2)夜間開催の現状
 (3)夜間開催の可否
 11 アンケート回答の総評
 (1)自治意識の欠落
 (2)地域住民の無関心
 (3)情報公開の不徹底

第4章 地方議会活性化の課題

 1 住民参加と情報公開
 (1)住民参加の実態と議員の役割
 (2)全員協議会と情報公開
 (3)議会広報の発行
 (4)地方紙の育成
 2 地域社会のあり方と選挙公約
 (1)代議制民主主義と選挙公約
 (2)選挙公約による地域社会のあり方
 (3)住民投票と地域社会
 3 選挙公約と政策立案
 (1)選挙公約と予算・決算
 (2)首長と議会の抑制均衡
 (3)議会運営と住民の傍聴
 (4)議会活動
 (5)議員の立法能力と政党
 (6)議会の夜間開催と議員報酬
 (7)議員報酬と議員定数
 (8)議長の任期
 (9)議会事務局の役割
 4 行政サービスと租税負担
 (1)現行財政制度と納税者代表
 (2)予算と決算の審議
 (3)税源の偏在と議論の出発点
 (4)自助努力と地方分権
 5 地域社会の自立と地方議員の役割
 (1)地方交付税制度と地域社会の自立
 (2)地域社会の活性化と議員の役割
 (3)住民投票
 (4)広域行政
 (5)住民自治の必要性
 6 地方議員の評価